前回、スキルの合計値には上限があることを知り、早々に頓挫した私の「最強のドラゴン魔法剣士計画」。
ゲームを始めたばかりの頃は、どのスキルも低かったので、剣を振り、魔法を撃ち、動物をテイムするといった具合に、やりたいことを片っ端からやっていても問題なかった。
しかし、そんな育て方を続けていれば、当然いつかスキル合計の上限にぶつかる。
何でもできるキャラクターを作ることはできない。
ここからは、「何を捨てて、何を伸ばすのか」を決めなければならなくなった。
そして私が最終的に選んだのが、テイマーだった。
沼ドラゴンとの出会い
UOには、プレイヤーが騎乗できる生物が何種類も存在する。
最もオーソドックスなのは馬。
ほかにも、通常のラマとは別種の騎乗できる「乗りラマ」や、二足歩行する馬サイズの恐竜のような「オスタード」、六本足の大きな体を持つ「沼ドラゴン」などがいた。
さらに、ナイトメア、キリン、ユニコーンといった、高いテイムスキルを持つプレイヤー向けの騎乗生物も存在する。
単純に騎乗して移動するだけなら、基本的にはどれに乗っても性能差はない。
しかし、ナイトメアやキリン、ユニコーンなどはそれ自体の戦闘能力も高く、敵と戦う際には騎乗を解除して一緒に戦わせることもできる。
テイマーにとっては移動手段であると同時に、立派な戦力でもあった。
「最強の魔法剣士計画」を私が進行していた頃。
そろそろ自分も馬が欲しいと思い、たまたま通りかかったプレイヤーに、
「馬ってどこで買えるんですか?」
と聞いたことがある。
その人は初心者丸出しだった私に親切にいろいろと教えてくれた。
それだけでもありがたかったのだが、最後にはなんと沼ドラゴンを一頭譲ってくれた。
馬や乗りラマよりも明らかに大きな体。
六本の足。
翼こそないものの、名前の通りドラゴンらしい迫力のある見た目。
私は一目で気に入った。
そして私の計画は、
「最強の魔法剣士」から「最強のドラゴン魔法剣士」へと華麗に軌道修正されたのである。
……まあ、結局それもスキル上限の前に頓挫することになるのだが。
派手なペットを連れ歩きたかった
沼ドラゴンをテイムするためには高いテイムスキルが必要だが、一度テイムされた個体であれば、テイムスキルを持たないプレイヤーでも騎乗することができた。
戦闘ペットとして見れば、ナイトメアやドラゴンのようなテイマーの主力になる存在ではない。
一方で、専用の鎧を着せることもでき、とにかく見た目の存在感は抜群だった。
大きな体は画面上でもかなり目立つ。
実利だけを求める熟練プレイヤーからすれば、その大きさをむしろ邪魔に感じる人もいたと思う。
しかし、そんなことは私には関係なかった。
格好いいから乗る。
それで十分である。
沼ドラゴンは、そこら辺を普通に歩いている馬とは違い、イルシェナーという沼地エリアにしかいないため、テイムしに行くのにも手間がかかる。
また、一部のプレイヤーからは邪魔にされた巨体だったが、その見た目の派手さを好むプレイヤーも存在したため、それなりの値段で取引されていた記憶がある。
私自身、完全にこの派手な見た目が好きな側のプレイヤーだった。
そして街中では、沼ドラゴンどころではない巨大なドラゴンを従えて歩いているプレイヤーを見かけることもあった。
当時、スキル値100.0に到達したプレイヤーは「GM(Grandmaster)」と呼ばれていた。
そんなGMテイマーらしきプレイヤーが巨大なドラゴンを引き連れて歩いている姿を見るたび、
「自分もいつかあれを連れて歩きたい」
と眺めていた。
そんなわけで、テイマーへの憧れが一際大きかった私は、テイマー系のスキルに絞ってキャラクターを育てていくことにした。
テイマー育成は、とにかく地味だった
ところがこのテイマースキル。
育て始めてみると、なかなか大変だった。
剣や魔法であれば、普段通りモンスターと戦っていれば自然とスキルが上がっていく。
モンスターを倒せばお金やアイテムも手に入るので、
狩り=金策=スキル育成
という非常に分かりやすいサイクルが成立する。
しかし、テイムスキルは違う。
基本的には、自分のスキル値に見合った動物やモンスターを探し、それをひたすらテイムすることで上げていく。
動物を見つけてはテイム。
モンスターを見つけてはテイム。
当然、それだけではほとんどお金にならない。
ならばテイムしたモンスターをほかのプレイヤーに売ればいいのではないかと思うのだが、これもそう簡単ではなかった。
戦力になるような強力なモンスターは、従える側にもある程度のテイムスキルが要求される。
つまり、それを扱えるプレイヤーは、自分自身もある程度テイムスキルを育てていることになる。
だったら自分でテイムすればいい。
よほど能力値の優れた個体でもない限り、わざわざほかのプレイヤーから買う理由は薄いのである。
そこで商品になるのが、テイムスキルを持たないプレイヤーでも利用できる騎乗生物だった。
ヘイブン銀行前で「馬売ってます!」
当時のUOには、「バーストタイム」と呼ばれる仕組みがあった。
1日のうち一定時間、普段よりスキルが上昇しやすくなるというもので、育成の大変なテイムスキルにとっては非常にありがたい時間だった。
当然、バーストタイムが始まればテイムに全力である。
そしてテイムのスキル上げ中に確保した馬をヘイブンの銀行前に並べて商売を始める。
今のオンラインゲームであれば、マーケットやオークションのようなプレイヤー間取引用のシステムが用意されていることも珍しくない。
しかし、当時の私がやっていた商売はもっと原始的だった。
チャットで、
「馬売ってます!」
とひたすら呼び込みをするのである。
欲しい人が現れると、
「2番目の白い馬をください」
といったやり取りをその場で行い、お金と馬を交換する。
今考えると、なんとも牧歌的な商売だった。
しかし、これが妙に楽しかった。
私はほぼ毎日のように同じ場所で騎乗生物を売っていた。
すると当然、顔見知りも増えてくる。
よく買いに来てくれる人。
同じ場所で別の商品を売っている人。
なんとなく雑談をするようになった人。
そうしたつながりから仲良くなったプレイヤーも多く、その中の一人から誘われて、私は初めてギルドにも所属することになった。
振り返ってみると、UOで印象に残っているのは、ダンジョン攻略やモンスターとの戦闘だけではない。
銀行前で「馬売ってます!」と叫んでいた、こんな何でもない時間も妙に記憶に残っている。
むしろ、こういう時間こそUOらしかったのかもしれない。
そして念願のドラゴンテイマーへ
そんな生活を続けながら、テイムスキルは少しずつ上がっていった。
育成にはかなりの時間がかかった。
しかし、その苦労に見合うだけの強さがテイマーにはあった。
やがて私はナイトメアに跨り、巨大なドラゴンを従えて歩けるようになった。
ゲームを始めた頃、街中でドラゴンを連れているプレイヤーを見て憧れていた姿。
ようやく自分も、そちら側に来ることができたのである。
PvEにおけるテイマーは非常に強力だった。
自分自身が敵と殴り合う必要はない。
強力なペットに戦ってもらい、自分は後方から回復や指示を行う。
育ちきったペットの戦闘力は凄まじく、かつて恐る恐る歩いていたダンジョンも、かなり自由に攻略できるようになった。
それまで苦戦していたモンスターをドラゴンが蹂躙していく姿は爽快だった。
テイムスキルは育てるのに時間がかかったが、その分、完成したときの強さは圧倒的だった。
当時の私の感覚では、PvEにおいては最強クラスの職業だったと思う。
平和なトランメル、危険なフェルッカ
ここで、当時のUOに存在した二つの世界について触れておきたい。
当時のUOには、「トランメル」と「フェルッカ」という二つの世界が存在していた。
基本となる地形はほぼ同じで、各地にあるムーンゲートを利用して行き来することができる。
しかし、この二つの世界ではプレイヤー同士の戦闘に関するルールが大きく異なっていた。
トランメルは、プレイヤー同士の無秩序な攻撃が制限された平和な世界。
一方のフェルッカでは、プレイヤー同士の戦闘が自由に行える。
そのぶん資源面などで優遇されている部分もあったが、当然ながら危険度は段違いだった。
町などのガード圏内であれば、「guards」と叫ぶことでガードNPCが犯罪者を処罰してくれる。
しかし、一歩町の外に出れば話は別である。
いつ、どこからPK(プレイヤーキラー)が現れるかわからない。
モンスターを狩っていたら突然ほかのプレイヤーに襲われ、そのまま殺されてしまう。
当時は死亡すると装備品を含む所持品が死体に残るため、PKに殺されれば、そのまま身ぐるみを剥がされることもあった。
そんなことが普通に起こり得る世界だった。
私はゲームを始めて以来、ほとんどの時間を安全なトランメルで過ごしていた。
特にテイマーはPvEでは圧倒的な強さを発揮する一方、PvPは得意ではない。
強力なモンスター相手なら頼もしいドラゴンも、人間のプレイヤーが相手となると話はまるで違ってくる。
そんなこともあって、必要がなければフェルッカには近寄らないようにしていた。
余談――UOでは「家を持つ」ことも大きな目標だった
少し話はそれるが、このトランメルとフェルッカの違いは、当時の住宅事情にも大きく影響していた。
UOでは、マップ上の空いている土地に自分の家を建てることができた。
家にはアイテムを保管したり、家具を配置したり、店として使ったりと、さまざまな用途がある。
自由度の高いUOというゲームを象徴するシステムのひとつだった。
当然、多くのプレイヤーが自分の家を欲しがる。
しかし、私がプレイを始めたのは、UOのサービス開始からすでに数年が経過していたころだった。
フィールド上には家が立ち並び、新しく家を建てる土地など余っていなかった。
家を建てるためのお金そのものは、それほどの額ではない。
問題は、
家を建てられる土地がない。
ということだった。
そのため、既存の家や土地はプレイヤー間で高値で取引されていた。
特に大きな町の近くや、有名なダンジョンへのアクセスがいい場所ともなれば、その値段は想像もできないような額になる。
そして、いつPKに襲われるかわからないフェルッカよりも、安全なトランメル側の土地のほうが当然人気も高かった。
「いつか自分の家を持つ」
というのは、当時の多くのプレイヤーにとって一つの大きな目標だったと思う。
私が所属していたギルドのリーダーも、小さな家を一軒所有していた。
そこはギルドメンバーに開放され、ギルドハウスとして使われていた。
とはいえ、トランメルの一等地に家を構えられるようなものではなく、その家が建っていたのは町から離れた郊外。
しかもフェルッカだった。
土地そのものが不足していた当時のUOでは、フェルッカ郊外の小さな家であっても、所有していること自体がうらやましく感じられたものだった。
PvEをやり込んだ先で、フェルッカへ
話をテイマーに戻す。
テイマーとしての育成も一段落し、強力なペットの力で行きたかったダンジョンにも一通り足を運べるようになると、安全なトランメルでの生活だけでは少し物足りなくなってきた。
PvEではかなりのことができるようになった。
テイマーとしても、自分なりには十分に育て切った。
そうなると今度は、それまで避けてきた危険な世界が少し気になり始める。
PKに襲われるかもしれない。
PvPではテイマーは決して強くない。
それでも、何が起こるかわからないフェルッカには、トランメルにはない緊張感があった。
そして私は、新しい刺激を求めて――
あれだけ近寄らないようにしていたフェルッカへ、少しずつ入り浸るようになっていった。


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